麻生太郎首相が11月19日、医師不足問題に関連し「自分で病院を経営しているから言うわけではないが、医師の確保が大変なのはよく分かる。(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値観が違う」と発言されました。
さすが高貴なご出身の方はおっしゃることが違います。
二階俊博経済産業大臣も、東京で急変した妊婦の受け入れ先が見つからなかった事件に関連して、「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思いますよ」とおっしゃっておられます。
全国から急速に産科医が(正確に言えば分娩を担当する医師の数が)減少している危機的状況に対して、今の内閣はこのような認識なのでしょう。
数年前からの産科医バッシングはすさまじいものでした。
横浜市の堀病院が看護師が内診を行っていたことが違法として、警察に摘発されました。結果多くの小規模な産科が閉鎖。
奈良では出産中の女性が脳出血を起こし転院先で死亡した件で、毎日新聞奈良支局はと、医療訴訟すらおこされていない時点で医療ミスであったと断罪、県立大淀病院は産科を閉鎖、結果奈良県南部地域から分娩を扱う施設が消滅。後に予断に満ちた誤報であったことが判明。
福島の県立大野病院では帝王切開中に癒着胎盤という合併症で女性が亡くなった件で、担当医が逮捕されるという決定的な事件が起こりました。激務と頻発する医療訴訟に加え、全力で治療にあたっても結果が悪ければ逮捕・拘留されるという眼の前に突きつけられた事実は、多くの医師を危険と隣り合わせのお産から立ち去らせるのに充分でした。(無罪が確定)
そんな中で今回墨東病院の件が起きました。墨東病院は人手不足のなか、母体と胎児と二人を同時に受け入れ、帝王切開と脳外科と二つの手術をこなしました。不幸にして母体は救命できませんでしたが、素晴らしい仕事振りだと思います。ただ責められるとしたら、大幅に医師数が定員を割りこんでいるにも拘らず、総合周産期医療センターの看板を下ろしていなかった事でしょう。大学に手を引かれ、今回の件で新たな援軍が来ることも期待薄になり、その激務(連日の当直で56時間勤務!)とその待遇(全国の自治体病院中最低!)を伝え聞くにつけ、彼らのこころが萎えないか、普段から墨東病院にはお世話になっている者として心配です。
悲観的予想をすれば、十年後にはお産のため、韓国や中国に渡る人が出るのではないでしょうか。
首相も高級ホテルの会員制バーで葉巻を吸うのもよいですが、一度夜の救急医療の現場をご覧に行かれてはどうでしょう。ファミリーで立派な病院もお持ちなのですから。
「医者は友達にもいっぱいいるが、おれたちと波長が合わないのが多い」そうですが、偶然にも私の方も政治家の方々とは波長が合わないと感じておりました。むしろ価値観が同じと言われなかった分まだましと思います。
一国の首相が特定の職業を名指しで誹謗することがあってよいのでしょうか。日本医師会はこれでも今の内閣を支持し続けるのでしょうか。それこそ「社会的常識」がないと言われてしまいます。